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2005年10月26日

今度は女の鬼だ!

 ……といっても現在放映中のアナザー「響鬼」の話ではない。

 「みちのくの安達ヶ原の黒塚に鬼こもれりと聞くはまことか」と古歌にも詠われた、会津二本松の鬼婆伝説探訪に行ってきた。
 アポ取りの都合で、取材一日目は付近に点在する殺生石/九尾の狐伝説の史跡をたどることになったのだが、いきなり初っ端の玄翁石@猪苗代町を探しあぐねて奥州の広野原を右往左往する羽目に(あとで村上健司さんの探訪記@『日本怪奇幻想紀行/二之巻』所収を参照したら、村上さんも場所が分からず苦労されたらしい……)。
 沿道の民家にクルマで帰宅した直後のおじさんに道を尋ねたところ、わざわざ御自分も愛車に乗り直して、現地まで案内してくださることに! 東北の方は本当に情に厚いと実感する。
 しかも、農道を外れた藪原の向こう(これじゃ探しても見つからないわけだよ、とほほ)に鎮座する巨大な玄翁石に感嘆のまなざしを注いでいると、「この近くに弁慶の硯石が、ウチの近くの藤石神社には殺生石(地元では「さっしょうせき」と発音するようだ)が、あります。よろしかったら案内しましょう」とおっしゃる。こここ、これは行かねばなるまい!
 こうして赴いた殺生石が、また凄かった。ご覧ください、なにやらクトゥルー神話のワンシーンを髣髴せしめる(!?)この奇ッ怪なる磐座のたたずまいを!

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↑石を覆う藤の蔓が触手さながらのたうつ殺生石(横から見たところ)

 かつては、うっかり腰をおろした旅人が、瘴気にあたって命を落としたといい、地元の土田(はにた)地区では近年まで、子供が近寄ったりすることを忌む習わしがあったとか……。

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↑正面から見た藤石神社の殺生石

 このあと河東町の夜泣き石(やはり玄翁和尚がらみの伝説あり)を見物して、喜多方へ向かい、慶徳稲荷さんに詣でる。ここは古さびて、良い感じに緑濃い素敵なお宮でした。陽の傾きかけたころ、喜多方駅前の食堂で本場の喜多方ラーメンに舌鼓を打ち、福島へ戻って一泊。

 さて、翌日。今回のメイン・イベントたる安達ヶ原は黒塚取材の顛末は……「ムー」新年号掲載予定の「日本伝説紀行」をご覧ください(笑)。
 とりあえず、マスコット・キャラのバッピーちゃんを、先行公開だ!(つーか、「ムー」ではたぶん触れないだろうなー)

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日本怪奇幻想紀行 2之巻

同朋舎 (2000.7)
通常1-3週間以内に発送します。

↑小生も和歌山霊木怪石紀行を寄稿してます

投稿者 東 雅夫 : 2005年10月26日 00:43 | コメント (3) | トラックバック (0)

2005年10月25日

三橋一夫氏を偲んで

 日下三蔵、森英俊の両氏とともに、故・三橋一夫氏の御息女で著作権継承者である今井マリノさんのお宅を訪問。出版芸術社版〈三橋一夫ふしぎ小説集成〉の発刊挨拶を兼ねて、いろいろお話をうかがおうという目論見である。
 集成第一巻『腹話術師』所載の拙文にも記したように、小生は生前の三橋氏御夫妻に一度だけお目にかかったことがあるのだが、当時、マリノさんは御主人のお仕事の関係で海外にお住まいでいらしたため、今回が待望ひさしい初対面となった。
 挨拶もそこそこに、早速、御用意くださっていた資料の数々を拝見する。〈まぼろし部落〉シリーズ第一作が掲載された「新青年」、戦前に私家版として刊行された一連の初期作品集(書き込みあり)、志賀直哉や女優・原節子とともに撮られた集合写真、心の師・山本周五郎との交流ぶりを伝える文献……なにより一同が色めき立ったのは、最晩年に書かれた未発表原稿――児童向けの長篇ファンタジーや交遊回顧録が、何編も残されていたことだった。清書されたかのように端正な書体で記された直筆原稿にお人柄が偲ばれる。

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↑『空袋男』の表紙絵は、当時マリノさんが描いた「お父さん」の絵だったことが判明!

 三橋作品の真価は海外でこそ正当に評価されるのではないか……との思いから、マリノさんが、室町書房版『腹話術師』一巻を、発表のあてもないまま、御自分の手で英訳されたことがあるという逸話も、いかにも三橋ワールドと地続きの温もりを感じさせて印象深かった。
 また三橋氏が、小説や武道ばかりでなく書画をも能くされたことを、今回、多くの現物を拝見して知ることができたのも、大きな収穫だった。

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↑三橋氏描くトクロポントならぬ「はねうさぎ」の図

 長時間にわたりお相手してくださったマリノさんに心から御礼申しあげるとともに、今回の作品集成発刊を機に、三橋一夫再評価が一段と進展することを願わずにはいられない。「不思議小説」以外の明朗小説やミステリー、自伝風作品にも、魅力ある佳品が少なくないのだから。

三橋一夫ふしぎ小説集成 1
三橋 一夫著
出版芸術社 (2005.10)
通常24時間以内に発送します。
鬼の末裔
鬼の末裔
posted with 簡単リンクくん at 2005.10.26
三橋一夫著
出版芸術社 (2005.11)
近日発売 予約可
黒の血統
黒の血統
posted with 簡単リンクくん at 2005.10.26
三橋一夫
出版芸術社 (2005.12)
近日発売 予約可

投稿者 東 雅夫 : 2005年10月25日 11:09 | コメント (2) | トラックバック (0)

2005年10月24日

怪しい新刊予約

 これはもう極めつきに怪しい!
 ドナルド・タイスン著、大瀧啓裕訳による『ネクロノミコン アルハザードの放浪』(学研より11月刊行予定)の予約受付が、このほどビーケーワンで開始された。
 『ネクロノミコン』の名を冠する書物は、すでに同じ学研M文庫から、コリン・ウィルスンほかによる『魔道書ネクロノミコン』が邦訳刊行されて多大な反響を呼んだが、今回刊行されるタイスン版には、なんと、狂えるアラブ人アブドゥル・アルハザードによって著されたとされる稀代の魔道書の本文が丸ごと再現されているらしいのである!?
 真偽のほどは、是非とも現物を入手、熟読のうえ御判断いただきたく……。

ネクロノミコン
ドナルド・タイスン著 / 大滝啓裕訳
学研 (2005.11)
近日発売 予約可
魔道書ネクロノミコン
コリン・ウィルソン序文 / ジョージ・ヘイ編 / 〔大滝 啓裕訳〕
学研 (2000.9)
この本は現在お取り扱いできません。

投稿者 東 雅夫 : 2005年10月24日 03:04 | コメント (0) | トラックバック (0)

怪しいトークショー

 いや、小生と総合司会の人と来場者のごく一部を除けば(笑)、そんなに怪しくはなかったかも。
 噂のアンダーグラウンド・ブックカフェ(要するに古書展のニューウェイヴでありますな)で開催された『中井英夫戦中日記 彼方より』刊行記念トークショーにお招ばれして参りました。
 第1部は齋藤愼爾さんと川崎賢子さんによる中井英夫トーク。「中井さんは『虚無への供物』を塔晶夫の筆名で再刊すべきだった」と今なお憤る齋藤さんのこだわりっぷり、イイなあ〜。

中井英夫戦中日記 彼方より
中井 英夫著 / 本多 正一編
河出書房新社 (2005.6)
通常2-3日以内に発送します。
現代詩殺人事件
斎藤 慎爾編 / 大岡 昇平〔ほか著〕
光文社 (2005.9)
通常2-3日以内に発送します。

 第2部は澁澤龍子さんと小生による『澁澤龍彦との日々』刊行記念トーク。澁澤夫妻と澁澤邸を浸していた独特の魅力的雰囲気を、いささかなりと追体験していただけたら良いなあ……という方向でお話ししてみました。
 あ、ちなみに小生が首から垂らしていたオレンジの布はマフラーじゃなくて、登山などで使う首巻き用のタオルです。マフラーで汗をふくな、というツッコミを後刻いただいたので、一言注記を(笑)。

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 トークショー終了後、古書会館の上階に場を移して打ち上げが行われたのですが、元講談社の宇山さん御夫妻もいらしていたので、『楽園の鳥』鏡花賞受賞のお祝いを直接、申しあげることができたのは、なによりでした。
 あとは相変わらずのクラニー問題とか響鬼話とか……。

渋沢竜彦との日々
渋沢 竜子著
白水社 (2005.4)
通常2-3日以内に発送します。

投稿者 東 雅夫 : 2005年10月24日 02:11 | コメント (1) | トラックバック (0)

2005年10月23日

怪しい対談

 京王多摩センター駅前の某ホテルにて、新倉イワオさんと加門七海さんのロング対談を収録する。当然のことながら(!?)「幽」第4号の連載対談企画である。
 テレビにおける心霊番組の大いなる先駆「あなたの知らない世界」などの放送作家として、怪談ファンには夙におなじみの新倉氏は、齢八十を超えた今も矍鑠たるもの。
 御自身が心霊の世界に関心を寄せる契機となった驚くべき実体験談に始まり、積年の取材、研究の過程で見聞された逸話の数々を、ときに身ぶり手ぶりも交えて開陳される御様子は、噺家さんの話芸を聞くような趣もあり、ついついスタッフ一同、固唾を呑んで聞き入ってしまうほどだった。
 4時間近くに及んだ談話の中から、選りすぐった話題をお届けする予定ですので、御期待ください!

恐怖!!あなたの知らない世界
新倉 イワオ著
宙出版 (2005.8)
通常2-3日以内に発送します。

投稿者 東 雅夫 : 2005年10月23日 19:47 | コメント (0) | トラックバック (0)

2005年10月22日

怪しいインタビュー

 京極氏邸からの帰路、「ダ・ヴィンチ」来月号で予定されている漫画版『陰陽師』完結記念特集に掲載される岡野玲子さん取材の模様を、横里編集長から拝聴する。実は編集長じきじきの御依頼により、小生も同特集に、完結に寄せた所感をインタビュー形式で発表することになったのだ。
 岡野版『陰陽師』は連載開始当初から愛読してきたし、小生編の『陰陽師伝奇大全』(響鬼騒動の余波なのか最近になって妙に在庫の有無を聞かれるのですが、すでに版元品切れの模様です。ネット古書店などでは比較的容易に手に入ると思いますので、「陰陽師伝奇譚」とか「陰陽二元論」とかに関心を抱かれた向きは是非トライしてみてください。文庫化の予定は……当面ないと思われます)には、巻頭と巻末に『陰陽師』の一部を収録させてもいただいた。
 また、ひょんなことから、岡野さん御本人や加門七海さんや文春の編集者氏とともに若狭路を旅して、陰陽道宗家・土御門神社本庁の星祭りを見物する機会にも恵まれた(そういえば、そのときの星祭りレポートを「ムー」に寄稿したのが、「日本伝説紀行」連載のきっかけとなったことを今、卒然と思い出したぞ)。煌々と月光ふりそそぐ天壇を前に、岡野さんが玲瓏と横笛を奏でる光景は、この世のものとは思えなかったことを、懐かしく思い出す。
 ……などと書いていて、これまたハタと思い出したが、横里さんとの初仕事も、「ダ・ヴィンチ」2000年2月号の陰陽師特集における「猫島伝説紀行」なのだった。陰陽師が結ぶ奇縁の数々よ!
 そんなこんなで、今回の完結編刊行には、ことのほか感慨深いものがあったので、思いのたけを語らせていただこうと思っている次第。荒俣宏さんも、やはりインタビューで登板されるそうなので、お愉しみに。

陰陽師 13
陰陽師 13
posted with 簡単リンクくん at 2005.10.22
岡野 玲子著 / 夢枕 獏原作
白泉社 (2005.10)
通常24時間以内に発送します。
陰陽師伝奇大全
東 雅夫編 / 浅井 了意〔ほか〕著 訳
白泉社 (2001.1)
この本は現在お取り扱いできません。

投稿者 東 雅夫 : 2005年10月22日 22:12 | コメント (0) | トラックバック (0)

怪しい会議

 新耳袋の木原浩勝氏、「ダ・ヴィンチ」の横里編集長、「幽」編集部のロータくんとともに京極夏彦氏邸へ。
 「幽」4号の第2特集「怪談を書こう!」および来年刊行を予定している〈怪談双書〉の新刊『怪談の書き方(仮)』のための作戦会議である。
 詳しい内容は……まだヒミツだ(笑)。
 とりあえず、10月31日、東京會舘で収録を予定している特別座談会の行方が愉しみである。

怪談之怪之怪談
怪談之怪編
メディアファクトリーダ・ヴィンチ編集部 (2003.8)
通常2-3日以内に発送します。

 ちなみに〈怪談双書〉といえば、福澤徹三さんの『怪を訊く日々』が、このほど幻冬舎文庫から文庫化刊行された。
 再刊にあたり、一部の話については追跡取材をおこない、加筆補訂をほどこすという相変わらずの気配りぶり。こうしたところにも、著者の怪異語りに対する真摯な姿勢がうかがえようというものだ。
 是非、元本と読みくらべてみていただきたいと思う。

怪を訊く日々
怪を訊く日々
posted with 簡単リンクくん at 2005.10.21
福澤 徹三〔著〕
幻冬舎 (2005.10)
通常24時間以内に発送します。

投稿者 東 雅夫 : 2005年10月22日 18:00 | コメント (0) | トラックバック (0)

朗報/『楽園の鳥』が泉鏡花賞を受賞!

 先ごろ探訪したばかりの金沢から、嬉しいニュースがもたらされました。
 以前このブログでも御紹介した寮美千子さんの異郷遍歴小説『楽園の鳥』が、今年度の泉鏡花賞(金沢市主催)を受賞したのです。選考委員の五木寛之氏や泉名月氏が絶讃、満場一致での受賞決定だったとか。寮さん、本当におめでとうございます。
 もうひとつ、感無量なことがあります。
 本書が、今年講談社を定年退社された「文三」の名物男・宇山日出臣さんが現役最後に手がけられた、しかも長い編集者生活で唯一の非ミステリー作品だったことです(本書刊行に至る感動的な経緯については、寮さん自身がBBSで詳しく語っています→http://ryomichico.net/bbs/lumi0058.html#lumi20051018002209)。
 『虚無への供物』を文庫化して世に広めたいという一念から、エリートビジネスマンの職をなげうって出版界へ身を投じ、「新本格推理」育ての親となった稀代の名伯楽は、その仕事納めに際しても鮮やかな妙手と炯眼を、己が「これ」と信じた作品を世に出すことに全力をそそぐ不撓不屈のエディトリアル・スピリットを、われわれ後進に示してくださった……そんな気がします。
 小生にとっても、なんだかとても心励まされる出来事でした。御両人に乾杯!

楽園の鳥
楽園の鳥
posted with 簡単リンクくん at 2005.10.21
寮 美千子著
講談社 (2004.10)
通常1-3週間以内に発送します。

投稿者 東 雅夫 : 2005年10月22日 07:18 | コメント (0)

2005年10月16日

年に一度の三峯神社

 金沢の花街を鏡花情緒に浸りつつ散策していたら、実家から着信が。「今週末、大丈夫なの?」ハッ、そうだった、この週末は秩父の三峯神社に、母親の付き添いで参籠する予定になっていたのだ。
 ……かくして自宅に腰を落ち着けるまもなく、池袋からレッドアローで一路、秩父へ。西武秩父の駅前から休日のみ運行される直通バスで1時間強、三峯山山頂の神域へと向かう(便利になった反面、渓流を眺めながら神橋を渡り、ロープウエーで山頂へ向かう旧来のコースも好きなんだけどね……年寄り連れでは致し方なし)。

mitsumineshinmon.JPG

↑修復工事が完了した神門。
森厳にして美麗なたたずまい。

 「明日は奥宮に参拝されますか?」神社に併設されている宿泊施設で記帳していたら、フロントの人に訊ねられた。たまたま翌日が「山閉祭」の当日にあたっており、妙法ヶ岳山頂の奥宮で祭祀が挙行されるのだという。良い機会なので、奥宮まで行ってこようかと思ったら、「わたしも行きます」と母親が云いだした。おいおい、奥宮までは片道2時間近く、夜叉ヶ池ほどではないにしても立派な登山コースで、途中には崖や足場の良からぬ難所がある。どう考えても七十歳を越えた年寄りが準備もなしに行ける所じゃないと思うが……(汗)。結局、翌日は朝から本降りで、奥宮での祭祀自体が取りやめになったので事無きを得たのだが、気ばかり元気な年寄りにも困ったものであることよ。

 どおーん! どおーんんん!――清澄な朝の山気を震撼させる大太鼓の轟きとともに、拝殿での祈祷が始まった。6名の神官が朗々と声明風に唱和する三峯神社特有の祝詞は、いつ聞いても耳に心地好い。今回は、奥宮参拝を目的に来た講社の団体さんと一緒だったため、巫女舞いも見られてラッキー(笑)。伴奏は、神官による和太鼓と管楽器の生演奏である。これぞまさしく「清め」の音撃の原点ではなかろうか……などと妙に感心しながら拝見した次第。年に一度の参拝だが、今年もまた心身ともに賦活された充実感とともに山を降ることができた。

wankoktai.JPG

↑宿の売店に愛用のお犬様ストラップが大量入荷
していたので嬉々として大人買い(笑)。
脚部が折れやすいため常にスペアを確保しておく
必要があるのだ。

wankopen.JPG

↑こちらは新商品のお犬様ボールペン。
三峯グッズマニアとして一応おさえておいた。

投稿者 東 雅夫 : 2005年10月16日 23:38 | コメント (0)

金沢文学散歩

 ここの記事をご覧になったビーケーワンの担当者氏が、「金沢文学散歩」という選書コーナーを設けてくださったので、ぜひとも御高覧を(上の欄にリンクがあります)。

 泉鏡花と波津彬子の夢幻世界は、きわめて深いところ、本質的な部分で、かたみに響き交わしているのである。あたかも、両者を育んだ金沢という地名の由来――清冽な湧水の底から掬いとられる砂金(すなわち、彼方からの賜物)の煌めきさながらに。(東雅夫「鏡花の縁」より/ソノラマコミック文庫版『雨柳堂夢咄 其ノ二』所収)

 小生、金沢にはこれまでも何度か訪れる機会があったが、今回は取材初日に、地元在住の波津彬子さんに、淑やかな和服姿で、鏡花ゆかりの史跡を御案内いただけるという思いがけない僥倖に浴したこともあって(このときの模様の一端は、来月発売の「ダ・ヴィンチ」でも紹介を予定しています。また「幽」4号の鏡花特集には、波津さん描く「化鳥」を描き下ろし掲載の予定。ファンの皆様、御期待ください!)、これまで以上に、この街の魅力に親しむことができたような気がしている。

kanazawanakahashi.JPG

↑鏡花「化鳥」の文学碑が立つ「中の橋」

 波津さんによれば、浅野川から卯辰山麓へ向かう途次、東の花街界隈の迷路めく路地の連なりで方向感覚を失うことを「狸詣で」と呼ぶそうな。素敵な言いまわしではないか。
 ちなみに、卯辰山の一帯をそぞろ歩きながら、しばしばデジャヴュめく感覚に襲われたのは、父が石川県人(小松市出身)であるという血のゆえか、はたまた小生が生まれ育った三浦半島は横須賀特有のトポスに酷似した景観のせいであったのか。

雨柳堂夢咄(ソノラマコミック文庫) 全4巻
波津 彬子
朝日ソノラマ (N/A)
通常24時間以内に発送します。

投稿者 東 雅夫 : 2005年10月16日 05:12 | コメント (3)

2005年10月14日

三橋一夫ふたたび!

 最初に訂正を。先に告知しました澁澤龍子さんとのトークショーの件ですが、入場無料なれど、事前に当日、整理券を入手する必要があるそうです。詳しくは「澁澤龍子さんとトーク」の記事に増補しておきましたので、御確認ください。
 なお、主催のアンダーグラウンド・ブックカフェのHPは下記のとおり。
 http://underg.cocolog-nifty.com/tikasitu/2005/08/post_f121.html

 さてさて、待ちに待った復活の時がめぐってきました!
 出版芸術社版〈三橋一夫ふしぎ小説集成〉の第一巻『腹話術師』の見本が到着。一週間後くらいに店頭発売となるようです。
 どうして見本を頂戴できたのかというと、その昔、国書刊行会版『勇士カリガッチ博士』に寄稿した拙文「不思議作家の不思議人生」が、巻末に再録されているからなのですな。今回の集成の編纂解説を担当されている日下三蔵氏のお眼鏡にかなったとのことで、光栄の至りであります。再録にあたり、細部に手を入れただけでなく、最後に「追記」として新章を増補しております。
 なお、今回の集成は全三巻に66篇を収録予定とのことで、これは春陽文庫版〈ふしぎなふしぎな物語〉よりもさらに13篇も多い収録作品数となります。初期の私家版に掲載後、埋もれていた作品が多数復刻されるのは悦ばしい限り。
 戦中戦後日本の日常に闖入する不可思議の数々を、ペーソスを湛えた筆致で活き活きと描く三橋一夫の不思議ワールドを未体験の向きは、是非この機会に一読をお勧めしたいと思います(この妙に心和む独特の雰囲気は、旧「響鬼」好きの方にもオススメかも!? 『響き交わす鬼』にも一時は収録を検討していた「鬼の末裔」とか「角姫」とか、鬼がらみの佳品――今は鬼譚と呼ぶのが流行のようだが――も手がけているぞ)。

kazuom1.JPG

↑今回はハードカバーなのだ。
ドレを起用したカバーデザインも不思議な雰囲気。

投稿者 東 雅夫 : 2005年10月14日 03:33 | コメント (0)

響鬼に始まりヒビキに終わる

 ……といっても鮎川哲也賞とミステリーズ!新人賞(東京創元社主催)の授賞パーティの話なんだが。
 「明日夢も鬼になるらしいけど、それってどうよ?」……会場に到着してまもなく、背後から音もなく近寄ってきた大森望氏に声をかけられる。開口一番その話題で来ますか。大森氏が旧「響鬼」を大いに気に入っているらしいことは人伝てに聞いていたのだけれど、噂は真実であった模様。とっとと研究読本に着手するよう唆される。
 (追記 その後、大森氏が心筋梗塞で緊急入院されたことを知り愕然。命に別状はないとのことで何よりでした。大森氏と小生とは年齢も近いし業態も似ているので、とても他人事とは思えません。この際、思い切ってゆっくり休んで今後に備えるのもよいのではないかと思います。心より御快復を祈念いたします)

 やはり旧「響鬼」にハマっている編集者(複数)の悲憤慷慨やら質問攻めやらに付き合ったりしていたところへ、特撮業界にもパイプのある某氏(迷惑かかるといけないのでお名前は伏せます)から声をかけられた。ちなみに小生、特撮業界とも東映さんとも、ごくごく僅かの例外を除いてこれまでほとんど没交渉ゆえ、今回の路線変更騒動に関しては総てが推測の域を出ないでいたわけだが、いろいろと背後事情を御教示いただき、大いに参考になった(多謝)。なるほどねえ、おおむね予想どおりというべきか、やはりあれは「遣り場のない怒り」だったのか……と得心する。
 前プロデューサー氏のそうした行き方が業界内で批判されるのは無理からぬことと承知のうえで、あえて外野の立場から云わせていただくならば――小説であれ映像作品であれ、客観的、合理的、功利的に見れば正気の沙汰とは思えないところにこだわりまくって燦爛と玉砕するようなタイプの不器用なクリエイターと作品が小生は大好きだし、そうした無謀な試みからしか生まれえないもの、数字のみを評価基準とする営みからは開きえない可能性というものが、世の中にはあると信じてもいる。実際、小生が専門とする怪奇幻想文学の分野では、そうやって世間的に黙殺されたり非難されたりしながら、後代に到って多くの理解者を獲得した作家たちがごろごろしているわけだしね。

 某氏とひとしきり話し込んでから、なんだか知らんが我が世の春という顔でえへらえへら会場を浮遊生物状態のクラニーをつんつん突ついてからかったりしていると、「お久しぶりです!」の声が。先般『花まんま』で直木賞を受賞した朱川湊人氏だった。小生がこのブログや時評で同書を採りあげていたことを御存知だったらしく、わざわざ声をかけてくださったのだが、小生が着ていたTシャツ(某響鬼研究会特製のオリジナル・デザイン)をひとめ見るなり「おっ、猛士ですね!」――そう、『花まんま』所収の絶品「トカビの夜」や最新短篇のひとつ「今日もどこかで雨が」(『英雄譚』創刊号に掲載。正調「仮面ライダー」ファンなら感涙必至)をお読みの方は先刻御承知のとおり、実は朱川氏も特濃の特撮オタクだったのである。かくして散会後一時間近く、ひたすら特オタ話に興じるためだけに(!)ホテル地階の中華料理店に場を移して歓談する次第と相成った。いやはや、愉しゅうございました。

 なお、今回は鮎川賞は該当作なし、第2回ミステリーズ!新人賞には、選考委員の綾辻行人氏も絶讃の高井忍「漂流巌流島」が選ばれた。ちなみに高井氏とも少しだけお話しできたのだが、ここでもやはり「響鬼」の話題に。なんだかなあ……ともあれ、高井氏の今後の御活躍をお祈りします。鬼をテーマにした歴史推理物とか、如何?(笑)

英雄譚
英雄譚
posted with 簡単リンクくん at 2005.10.13

光文社 (2005.10)
通常24時間以内に発送します。
花まんま
花まんま
posted with 簡単リンクくん at 2005.10.13
朱川 湊人著
文芸春秋 (2005.4)
通常24時間以内に発送します。

投稿者 東 雅夫 : 2005年10月14日 01:31 | コメント (4)

2005年10月13日

澁澤龍子さんとトーク

 告知が遅くなりましたが、来る10月18日(火)午後7時より、神田神保町の古書会館地下ホールで、故・澁澤龍彦氏夫人の龍子さんと小生のトークショーなるものが開催されます。司会兼仕掛人は、中井英夫氏最後の助手となり、その著作の編纂校訂出版活動に邁進中の本多正一氏。第1部は中井英夫パートとして、深夜叢書の齋藤愼爾さんと文芸評論家の川崎賢子さんが登板されます。
 龍子さんがこういう席で、シブサワさんのことについてお話しになるのは稀なことだと思いますので、御都合のつく方はふるって御来場くださいませ。

 『中井英夫戦中日記 彼方より』刊行記念トークショー
 日時:10月18日(火)19:00〜21:30
 会場:神田古書会館地下ホール
 (第1部)『中井英夫戦中日記』(河出書房新社)刊行記念トークショー/ゲスト=齋藤愼爾&川崎賢子
 (第2部)『澁澤龍彦との日々』(白水社)刊行記念トークショー/ゲスト=澁澤龍子&東雅夫

<トークショーご来場ご希望の方へ>
*定員80名(整理券をお持ちの方のみ)
*当日(10月18日)午前10時から会場(東京古書会館地下ホール)にて
 整理券を配布いたします。
*同時に当日(10月18日)午前10時から、電話での受付もいたします。
 (東京古書会館地下会場直通 03−5280−2288)
 電話予約された方は午後6時半までに、会場にて整理券をお受取ください。
*電話を含め、整理券の受付は当日限りです。当日前の予約はございません。
*6時半に古書展会場をいったん閉場し、場内を設営いたします。
 その間整理番号順に会場前にお並びいただき、準備が整いしだい、
 順次入場していただきます。時間に遅れていらっしゃった場合には、
 後列にお並びいただきますので、ご了承ください。

中井英夫戦中日記 彼方より
中井 英夫著 / 本多 正一編
河出書房新社 (2005.6)
通常2-3日以内に発送します。
渋沢竜彦との日々
渋沢 竜子著
白水社 (2005.4)
通常2-3日以内に発送します。

投稿者 東 雅夫 : 2005年10月13日 12:13 | コメント (0)

2005年10月10日

忍法空蝉の術!?

 そんなこんなで思いがけず長期取材になってしまった北陸鏡花紀行から戻ってみれば……郵便物や宅配便は山積みだわ、打ち合わせが目白押しだわ、締切は待ったなしだわ(汗)。
 帰宅翌日は午前中から、いよいよ執筆依頼が開始されるN社の競作集企画(今はとりあえず「猫」がテーマのかつてない物語集、とのみ)について、担当のI氏と電話で打ち合わせ、郵便物の山に埋もれていた「日本文学」誌11月号に掲載される拙稿(「ホラー・ジャパネスク文学史への覚え書き」)のゲラに慌てて目を通し投函後、昼から渋谷のメディアファクトリーへ駆けつけて、いまだ固まっていなかった「幽」第2特集の方針について協議。こちらも面白い特集になりそうなので、実話怪談ファンの方はお楽しみに。特にビーケーワン怪談大賞で盛り上がった皆様には、ちょいと嬉しいかもしれない発表も予定しています。
 会議のあと、「幽」の編集制作スタッフ総出で、南青山にある祖父江慎さんのデザイン事務所へ。凸版の担当者やデザイナーの梅津さんも交えて、第4号へ向けての制作システムの確認や調整をおこなう。しかし……半年経つのは早いもんだよ、まったく。

 打ち合わせの前に、祖父江さんとちょっと雑談。
 「『浄夜』の装幀、すっごくイイですねえ〜(はぁと)」(←ただのミーハーファン)と申しあげたら、得たりとばかり現物を取り出されて、カバーを外し、「この表紙の模様、何だか分かります?」と、ニヤニヤしながら質問された。
 あ〜これねえ、クロスっぽい水色の地に、なんの形ともつかない奇妙なパターンの模様が白く散らばっている……ひと目見て、気になっていたのよ、たしかに。
 「えへへへ、実はこれなんです〜」
 と云って祖父江さんがひょいと持ち出されたのは、ななな、なんとビニール袋いっぱいに詰められた蝉の抜け殻!
 「これをスキャナの上に散らして撮ってみたんです〜」
 うう〜むむむ。祖父江マジック「空蝉の術」でしたか!(驚嘆)

sobuejyouya.JPG

↑『浄夜』の表紙の上に抜け殻の現物をちりばめた
スクープ映像(笑)。抜け殻は信州で採取されたとか。

浄夜
浄夜
posted with 簡単リンクくん at 2005.10.10
花村 万月著
双葉社 (2005.9)
通常24時間以内に発送します。

↑造本に劣らず萬月氏の作品自体もきわめて刺激的なのだ!

投稿者 東 雅夫 : 2005年10月10日 14:12 | コメント (3)

2005年10月08日

其夜ノ怪談

 仮にKさんとしておこう。今回の北陸鏡花取材に御同行いただいた作家女史は、大のオカルト好きで怪談好き。夜ともなれば宿泊先を抜け出して、付近の怪しげなスポットを散策するのが趣味という御仁である。
 夜叉ヶ池を下山して麓の旅宿に戻り、夕食も終えた憩いのひととき――「さてと、散歩に行こうかな〜」とKさんが切り出した。うら若き……かどうかは保証の限りではないが、御婦人を独りで夜中に徘徊させるわけにもいかず、小生および編集スタッフのRくん、今回も撮影をお願いしたカメラマンMOTOKOさんのアシスタントを務めるUくんの三人が同行することと相成った。
 散歩自体はマア平穏に終わり(ホッ)、宿へ戻って早々に床に就いた。皆、馴れない登山で疲れ切っていたのである。

 午前二時を過ぎた頃だろうか。なぜか目が醒めた。軽い尿意を感じたので、そのせいかとも思ったが、小用に立とうか否か、しばらく闇の中でためらっていた。
 理由は三つある。そんなに差し迫った欲求ではなかったので、外廊下の突き当たりの共同トイレまで出かけるのが億劫だったこと。窓際に寝ている小生が動くと、隣に川の字で寝ているRくんとUくんを起こしかねないのがためらわれたこと。そして……なんとなく、ではあるのだが、妙に気味が悪かったこと。宿には我々以外に泊まり客はおろか従業員もおらず、窓外は渓流と深い森。宿の内外を領する闇の深さは半端ではない。
 そんなこんなで、しばらく闇の中でじっとしていたら、廊下側に寝ていたUくんが、突然何やらぶつぶつ言い出した。なんだか声をひそめて携帯で話しているようでもある。急な連絡でも入ったのかな……などと半睡状態の頭で考えた、そのとき。
 「え、な、なに? おい、う、ううう、うあああ、ワアーーーッ!」
 突如、Uくんが凄まじい絶叫とともに布団の上に跳ね起きた。
 小生はもとより、熟睡していたRくんまで飛び起きるような大音声だった。
 「おいおい、どうしたの? うなされたのかい」
 二人が問いかけても、Uくんはよほど動顛しているのか、言葉が出てこない様子だった。ただハアハアと肩で息をしている。
 ちょうど良いタイミングだったので、小生は小用に立ち、戻ってみると、Uくんもやや落ち着いたのか、ふたたび布団にくるまっていた。
 ところが、それからしばらくして、Uくんが遠慮がちに切り出した。
 「すいません、電気を点けてもいいですか?」
 ふだんから電気を点けっぱなしのまま寝てしまうことも珍しくない小生は、快く了承したのだが、内心、ただならぬものを感じざるをえなかった。いつも控えめで、黙々と仕事をこなす好青年のUくんが、そんなことを言い出すとは、よくよくのことだと察したからである。たんにうなされたり、寝ぼけたりしたのとは、なにか違うんじゃないか……。
 結局、Uくんは夜が明けきるまで本を読んだりして過ごし、それから眠りに就いたようだった。
 起床後。小生とRくんの冷やかし混じりの問いかけに応えて、Uくんが語るには――。
 夜中、なぜか急に目が醒めて、そのまま眠れなくなってしまった。寝床の中で輾転反側していたら、いきなり、耳もとで男の声がした。
 何かを必死に訴えかけているらしいのだが、何を云っているのかサッパリ分からない。
 驚きと恐怖で大声を挙げたら、男の気配は消えたが、怖くてたまらないので、朝まで電気を点けっぱなしにさせてもらった。
 「お騒がせして、すみませんでした……」
 こんな体験は生まれて初めて、というUくんの表情は、まだ少し強張って見えた。

 食堂に出て行くと、Kさんが美味そうに起き抜けの一服を吹かしていた。
 「いやあ、夕べはえらい騒ぎでさあ……」
 小生が水を向けると、Kさんは打てば響くように、
 「あ、やっぱりぃ!?(笑)」
 おいおいおいぃ〜!!!
 「夕べ、散歩から帰ってきたときにね、あれ、一人増えてるな、と思ったのよ。みんなを怖がらせても悪いから、そのときは黙っていたんだけど、そうしたら夜中に、男が、私のとこに来たからさ、ええい、安眠妨害だ、あっちに行け! って追い払ったんだけど……そっちに行っちゃったのね」

fumotonoyado.JPG
↑怪異の現場。手前がUくんの寝床、
廊下を隔てた向かいがKさんの寝床の位置

 Uくんのみならず小生も、およそ霊感や怪異体験とは無縁の人間である。なにしろ、かの『文藝百物語』のテープ起こしを、深夜に一人きりで続けたときにも、なんの異変にも見舞われなかったほどなのだ。またそれなればこそ、こうして怪談専門誌の編集や、怪談関連本の執筆を生業として、つつがなく続けていられるのでもあろう。
 それだけに、今回の体験は、小生としても非常に興味深い出来事だった。
 「幽」誌上では、Kさんの視点から、この出来事についても御執筆いただくことになっているので、どうか御期待いただきたい。
 なお、言わずもがなのことではあるが、以上の記述は一切の潤色を加えていない、事実ありのままの記録であることを言明しておこう。

投稿者 東 雅夫 : 2005年10月08日 13:58 | コメント (6) | トラックバック (0)

2005年10月07日

九萬坊大権現

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 摩利支天山宝泉寺の由緒書に、本尊の摩利支天と共に九萬坊大権現とお稲荷さんを合祀、と記されているのを見て、「またしても九萬坊さんか……」と思わず独りごちた。
 その前々日、意想外の奇縁により、金沢市街の南、九萬坊信仰の本拠地たる黒壁山薬王寺に参詣したばかりだったからである。
 今回の金沢取材におけるメイン・イベントのひとつ――地元在住の漫画家・波津彬子さんと、取材に御同行いただいた作家の加門七海さん、そして小生による座談会を収録した際、波津さん御推奨の「魔処」として名前が挙がったのが、他でもない黒壁山薬王寺だったのだ!
 黒壁山の九萬坊大権現については、泉鏡花も「飛剣幻なり」という作品で触れているが、それにもまして印象的なのが、室生犀星の怪作「天狗」だろう。

 黒壁権現は、断岩の上にあって、流れを徒歩でわたると、二条の鉄鎖が下りてあった。誰が云うとなく、権現には天狗が住んでいるというものが、次第にその数を殖してきた。雪の多い朝、雪を下ろしに屋根へ上った小者が、それきり吹雪のなかに行方知れずなったことや、いまのいままで居た老婆が、ふいに縁側から、辷り落ちたように見えなくなったことさえあった。(室生犀星「天狗」より)

 実はこの「天狗」を、小生は『妖怪文藝 巻之参 魑魅魍魎列島』に復刻収録したばかりだったのである。まさか同書の上梓と前後して、御当地におもむくことになろうとは……まったくもって人生、何があるか分からないものである。

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 夜叉ヶ池登山の翌日、岐阜から一路、金沢へとクルマを駆った取材班一行が、目指す黒壁山薬王寺を探しあてたのは、おりしも日没直前。急峻な石段が続く奥の院参道には照明がまったくなく、万一途中で日が暮れたら、名高き魔処の真闇の中を戻らねばならない。果たして参詣の顛末は……「幽」第4号の拙稿に御期待ください(笑)。

 ちなみに「天狗」所収の『妖怪文藝 巻之参 魑魅魍魎列島』、ビーケーワンにも入荷しております。
 もうひとつの『日本怪奇小説傑作集1』としても興趣深い一巻となっているのではないかと思いますので、さして妖怪好きではないという向きも是非、お手にとってご覧ください。自信作です。

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↑天狗信仰の証たる羽団扇の紋章。
猛士のマークじゃないっすよ。

妖怪文芸 巻之3
東 雅夫編
小学館 (2005.11)
通常24時間以内に発送します。
日本怪奇小説傑作集 1
紀田 順一郎編 / 東 雅夫編 / 小泉 八雲〔ほか著〕
東京創元社 (2005.7)
通常24時間以内に発送します。

↑実は連作というか姉妹篇なのだ!

投稿者 東 雅夫 : 2005年10月07日 06:38 | コメント (0) | トラックバック (0)

2005年10月06日

またもや増刷御礼

 魔所の名高き五本松、宇宙に朦朧と姿を顕じて梢に叫ぶ天狗風、川の流れと相應じて、音無き夜に物寂し……(泉鏡花「聾の一心」より)

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 金沢市街の東、かつては魔処として畏れられた卯辰山山中の名刹・摩利支天山宝泉寺を、急な坂道にふうふう云いながら尋ねあて、流れる汗をぬぐいながら、鏡花作品でもおなじみの五本松(天狗の栖と怖れられた神木である)を感慨深く見上げた途端に、携帯の呼び出し音(当然「輝」である)が。
 東京創元社編集部のM原氏からだった。てっきり、取材旅行で中断している第3巻のゲラ戻しの催促だと思ったら――「嬉しいお知らせです。第2巻の増刷が決まりました!」
 おお、やったー! シリーズ物というのは、どうしても部数が右下がりになりがちなので、1巻目とほぼ同じペースでの増刷決定は、なんとも嬉しい限り。これもひとえに、律儀にお付き合いくださっている読者の皆様のおかげである。衷心より御礼申しあげます。
 こいつは幸先いいやあ〜と、陽炎の化身にして闘いに臨んでは必勝をもたらすと効験あらたかな御本尊の摩利支天様に、しっかり祈願を捧げてきた。何を祈ってきたかは……もちろんナイショだ(笑)。

日本怪奇小説傑作集 2
紀田 順一郎編 / 東 雅夫編 / 城 昌幸〔ほか著〕
東京創元社 (2005.9)
通常24時間以内に発送します。

投稿者 東 雅夫 : 2005年10月06日 17:10 | コメント (3)

2005年10月04日

妖怪本文庫総括/バーゲン本フェアに注目!

 ビーケーワンの文庫コーナーに、妖怪文庫フェアを兼ねたインタビュー記事が掲載されております。
 この夏の出版界を席巻した(!?)空前の妖怪本ラッシュ。とりわけ若年層にも入手の容易な文庫本で、妖怪研究の基本図書、必読書が刊行されるようになったのは大いに歓迎すべきことです。
 そうした傾向に先鞭をつけて、地味ながら台風の目となっているのが、中公文庫BIBLIOの〈「異」の世界〉シリーズ。単身奮闘中の若き担当編集者に、企画起ちあげから現在までのお話をうかがいました。興味深いインタビューになりましたので、よろしく御高覧のほどを。

http://www.bk1.co.jp/contents/booklist/0509_biblio1.asp

 ビーケーワンの注目フェアを、もうひとつ。
 幻想文学好きの皆様は、「バーゲンブック(自由価格本)フェア」も、お見逃しなく! 思わず「うおお〜」とか「ほほう」と唸る好企画の良書なれど、値段が値段ゆえ手が出ない……そんな垂涎の高額本を、半額以下で販売中。
 もっとも嬉しい反面、出版に携わるものの一人としては、とても複雑な気持ちにもなるわけですが、いずれにせよ、本たちにとっては、読まれてこそ、愛蔵されてこそ、世に出た甲斐があるのですから、この機会に、ご縁があるならば是非!

http://www.bk1.co.jp/contents/booklist/0508_bargenbook.asp

投稿者 東 雅夫 : 2005年10月04日 15:07 | コメント (0)

鍛えてきました!

 岐阜と福井の県境、標高千メートルを超える山上にある霊地「夜叉ヶ池」に、一念発起して登ってきました。
 そう、泉鏡花の名作戯曲『夜叉ヶ池』の舞台となった幽邃境です。前々から一度は訪れてみたいものと思っていたのですが、なかなかチャレンジする機会がなく(運転免許を持たない人間の単独行は困難な場所なのよ)、今回「幽」第4号(12月中旬発売予定)で「泉鏡花」特集を組むのを千載一遇の機会に決行した次第です。

yashayuugen.JPG

↑夜叉姫が入山の際に身を浄めたという山腹の瀧
まるで小生のためにあるような名称ではないか(笑)

 「幽」で「山の霊異記」を好評連載中の安曇潤平さんと、山ネット仲間のTさんというベテラン登山家おふたりに先導役をお願いできたので(ありがとうございました!)、小生を筆頭に登山初心者が大半を占める取材班一同、大いに心強かったのですが、奇勝「夜叉壁」横をロープ伝いに登る崖道に直面したときには……正直かなりビビリました(汗)。

yashakabe.JPG

↑夜叉壁

 幸い「仮面ライダー響鬼」第28〜29話(不朽の名作。DVD発売の暁には必見ですぞ)の明日夢くんのように滑り落ちることもなく(笑)、帽子や携帯を失くすこともなく、取材班一同、無事にたどりつけたのは何よりでした。
 ただし……往きも帰りも雨にはしっかり降られましたけれど。それでも「やまない雨はないのさ」というヒビキさんの名言どおり、池畔に着いたとたん嘘のように雨があがり、サアーッと霧が晴れて玲瓏たる水面が姿を顕わしたのには感動しました。なんだか「力」をもらえた気がしましたね。ふ、次の目標は屋久島だな。
 え〜それでは、ヨロイツチグモならぬヤシャゲンゴロウが気持ちよさそうに泳ぎまわる水辺にて、お約束の――(シュッ)

yashaike1.JPG

(撮影・村崎漏太氏)

泉鏡花集成 7
泉 鏡花著 / 種村 季弘編
筑摩書房 (1995.12)
通常2-3日以内に発送します。
幽 第3号
幽 第3号
posted with 簡単リンクくん at 2005.10. 4

メディアファクトリー (200506下旬)
通常24時間以内に発送します。

投稿者 東 雅夫 : 2005年10月04日 13:41 | コメント (5)