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『遺品』/純太郎

私の祖母は日本人形を作るのが趣味で、とても優しい人だったわ。だけどね、何と言っても私が祖母と言って一番最初に思い出すのが髪の毛なの。祖母はビックリするくらい、黒々として艶のある綺麗な髪をしてた。本人もそれを自覚してたみたいで、鏡の前で丹念に髪を梳かす姿を何度も見かけた事があるわ。祖母が末期がんで、余命一ヶ月も無いと分かったのは私が十才の時だった。寝たきりになってしまった、祖母本人の希望で最後は自宅で過す事になったのね。それで、ある日の夜。夜中にトイレに行こうとしたら、祖母の部屋の扉が少しだけ開いてる事に気付いて、そっと中の様子を窺ったの。そうしたら、真っ暗な部屋の中で祖母が布団から這い出して、寝たままの姿勢でゼェゼェ言いながら必死に手
を動かしてる。月明かりでかろうじて見えるんだけど、どうやら人形を作ってるみたいで。だけどその人形は、頭髪だけが無い状態で丸坊主だった。そうしたら祖母は、震える手で鋏を持ち出して自分の髪の毛を数十センチ切り落としたの。何するんだろう、と思ったらその髪の毛を一本一本人形の頭に付け始めたの。その時見た祖母の顔は、本当に般若みたいだった。涙を流しながら、目を剥いて必死に苦しさと闘いながら、人形に自分の髪を付けているの。私、声も出ない程怖くて、自分の布団に戻ってブルブル震えてた。祖母が亡くなったのは、その翌日だった。枕元には、髪がとても綺麗な日本人形が置かれていたの。だけどね、私あの時は、ただ怖かっただけだけど今になって思い返すと、やりきれない思
いになるの。死を覚悟した祖母が、どんな思いで自分の髪を人形に植え付けていたんだろうって。自分が生きた誇りみたいのを必死にこの世に残したかったんじゃなかったのかなって。今ならその気持ち凄く良く分かるの。私も先月、祖母と同じ病名を宣告されたから。そう言うと、病室のベットに横たわった私の親友は寂しそうに笑った。

投稿者:kazuto 2008年07月15日 0時12分

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