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『棒』/クジラマク

 行く先々で、よく見かける人がいます。小さい町だからといえば、それまでですが。中年の男性です。その人ですが鬘です。誰が見ても一目でばれてしまうような鬘を被っています。酔っているのか、いつも覚束ない足取りでした。目立つから見つけやすいのでしょうか。それにしても遭いすぎだと思います。やたら目も合いますし。幼稚園に通う娘など「あ、またあの変な人」と指差してしまうので困ってしまいます。夫に話してみましたが、ただの偶然だろうと取り合ってくれません。
 娘が昼寝をしている隙に、買い物を済ませ戻ってみると、家がめちゃくちゃに荒らされていました。惨状より娘の安否が心配です。親子で使っている寝室に向かいます。娘はベッドの上で胡坐をかいていました。無事のようです。一気に気が抜けます。寝室も酷い有様でした。娘は辺りなど気にせず、手にした何かを玩んでいました。40センチほどの気味の悪い形の棒に巻きついた薄汚れた布を無心で千切っています。抱き寄せ、事情を聞こうとしましたが、心ここにあらずといった様子で、棒から布を毟りつづけていました。
 被害は、私の洋服と下着が数点盗られただけで金品は無事でした。娘にも危害はありません。娘が手にしていた棒は犯人の遺留品として警察に押収されています。切除された人間の脳の一部を細長い形に成形し、周りを樹脂で固めたもの、なのだそうです。娘はそれを「あの変な人が来て、くれた」と証言しました。私は刑事さんに鬘の男性の人相を伝えます。「違うでしょ、お着物着た面白い顔のおばちゃんでしょ」娘が訂正しました。着物を着た女性など私は見ていません。娘も鬘を被った男の人なんか見てないと言い張ります。事件以後、鬘を被った男性も着物を着た女性も私たちは見ていません。後日、私たちが証言した犯人像とは全く異なる人物が自首してきたそうです。自供内容に一貫性がないことから、すぐに釈放されたと聞きます。

投稿者:kazuto 2008年07月15日 0時20分

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