『引越し』/黒瀬たろう
日曜日の朝の事であった。チャイムが鳴った。ドアの覗き穴から覗くと作業服を着た男達が三人いる。男達は山岡引越センターです。引越しの件でお伺いに参りましたという。私には引越しの予定がないのでお隣さんと間違っているのではと思いドアを開けて話を聞いてみる事にした。そしてドアを開けた瞬間だった。男達はズカズカと部屋に上がりこみ持って来ていたダンボールに荷造りを始めたのである。私は焦った。私には引越しする予定はないと何度訴えても完全に私の事を無視し淡淡と荷造りを整えていく。私は強制的に止めさせようと一人の男を羽交い絞めにしようとした。すると別の男が私の肩をそっとつかみ私の目を覗きこんだ。すると私の体はまるで金縛りにでもかかった様に身動きが取れなくなった。それから三時間もすると私の部屋は空っぽになった。男達が帰ってから二時間程経つとようやく金縛りは解けた。帰りがけに男達が置いていった紙を見てみるとそこには、紫鬼市中央区光町三ー六黒華荘二ー三0二号室。明日の十時までにお越し下さい。と書いてあった。調べてみるも日本にはそんな場所はない。あまりの不気味さに警察にも言えずその日は終えた。翌朝六時に電話の音で目が覚め電話に出るとあの山岡引越センターからであった。なんでも私の名前は山神仁志というのだが山神仁史という別人と間違えてしまったというのである。荷物はすぐに持って行くと言い電話を切った。電話は持って行かなかったんだなと思い何気に電話線を見た。すると電話線は引き抜かれていた。ようやく事の次第が飲みこめてきた。紫鬼市とは人の住む世界ではないのだ。私はふと山神仁史のことを思った。私の目からは少し涙が零れた。
投稿者:takazawa 2008年07月20日 17時50分
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