『こんにちは』/ぽんた@
それは言葉にするもおぞましい。
一度絡みつけばまとわりついて離れない黒蛇。死人のように白く粘土のようにべとべとへばりつく地肌。その内側に潜り込み膨らんだ脂肪の塊。ぶにょぶにょと柔らかい。まるで腐ったこんにゃくの上を歩いているようだ。なによりも深く暗い闇の中にわしを飲み込み精気を搾り取る穴を持っておる。
底無し井戸のような穴は毎日毎晩甘い汁で誘いながらわしが落ちるのを待っておる。おろかなわしは夢遊病者のようにふらふらとぽっかり口を開けた井戸の縁までさまよい歩く。あっと気づいたときにはもう遅い。苔生してぬるぬるした穴の中に頭から引きずり込まれ百日分の寿命を吐き出すのだ。
空洞になったわしは蛇が飲み込んだ生卵の殻を「げぇ」っとするように捨てられる。そのまま死んだように眠り鋭気を溜める。そんな繰り返しで数年を生きてきた。
ある日のことだ。いつものようにわしは光りを通さない湿った草むらの中を彷徨い歩いていた。絶え間なく聞こえる獣の咆哮。背筋が粟立つ。恐怖に急き立てられるように足を速めた。
井戸の縁に立つ。何やら妖気のようなものが漂う気配がする。ただならぬ雰囲気に怖じ気づく。しかし躊躇いは許されなかった。井戸の中からにょろにょろとしたものが出てきてわしを縛り上げ強引に奈落に突き落としたのだ。
く苦しい。たまらずわしは寿命を吐き出した。気が遠くなる。幽体離脱したようにわしはわしの体を残し底へ底へと潜っていく。ぼんやりした光りが見えたのでそれを目指す。
それは大きな繭のようなものだった。中で眠ると気持ちよさそうだ。ようやくわしは安住の地を見つけたのかもしれなかった――。
本当の恐怖は十月十日後に始まる。
投稿者:takazawa 2008年07月21日 15時46分
このエントリーのトラックバックURL:
http://blog.bk1.jp/cgi-bin/mt/mt-tb.cgi/8729