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『白鬼昼行灯』/砂場

 昼休み、河童の川流れを見た。同僚と川のほとりを歩いていて、見かけた。ひっかかりもせず上手くすういすういと流れるのでさすが河童だと感心したが、まさか流れている河童にそう言うわけにもいかなかった。ほとんど嫌味である。同僚も息を呑み、感心している気配があったが、言葉には出さなかった。私たちはずっと何かをしゃべっていたが、河童のカの字も出さなかった。
 その続き、イチョウの並木が続いている道でのことだ。猿が木から落ちている、と指を差し教えたら、同僚はあれは元々登っていなかったんだと言った。私の声は年甲斐もなくはしゃいだ声だったかもしれないが、同僚のは殊更に冷静な口調だった。もしかして同僚は本当は木から落ちた猿をかばったんじゃないかと思ったが、黙っていた。私たちはそれきり口をつぐんで会社に戻った。
 席に着きパソコンを操作する私の頭に河童が流れる。なかなか忘れられるものではない。流れていた場所からすぐ近くに河口があるはずだが、河童はどこまで行ったのだろう。海は平気だろうか。耳はどのくらいいいのだろう。まさか読心術のようなものを……? 急に恐ろしくなって、ひとつ向こうの島で丸めた背中を見せて座っている同僚と話したくなったが、さっきの猿のこともあったので結局やめた。
 のだが、「なんだよ」とか「くそっ」とかいう小さい声が私の席まで聞こえてきた。パソコンの扱いは大の得意だと公言して憚らない同僚が、苛立たしげにマウスをカチカチやっている。挙句、ばちんとキーボードを叩く。以前にパソコンのことで質問したら「君が何を分からないのか分からないんだけど?」みたいな顔をしていた同僚のそんな姿に、つい、ごろごろと喉も鳴ろうというものだ。のに、隣の女の子が生ゴミ漁りを蔑む人間の如き目つきでこちらを見るからぞっとして、私の喉はすんと大人しくなってしまった。

投稿者:takazawa 2008年07月21日 15時58分

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