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『おまもり』/黒木あるじ

 営業部のKさんから聞いた話。
 このご時世、昨日まで談笑していた取引先が翌朝には倒産などという事態も稀ではない。S縫製所もそんな会社のひとつで、Kさんが請求書を納めに行くと社長が疲れ果てた顔で、ウチやっちゃった、と言いながら手を振った。こういった場合は目についた物品を取り上げて来いと部長から口うるさく言われている。持っていける物は無いですかと聞くと、社長は黙って部屋の奥にある段ボール箱を指差した。梱包をほどいた中には、大量のお守り。布袋に木札を納めたよくあるものだ。初詣用に神社へ納める予定だったという。こんなモノどうすれば。困惑するKさんを見つめながら、社長は、大丈夫大丈夫、良い事あるよ。ウチのぶんまで運を詰めといたから。そう呟き力なく笑った。次の取引先に向かう時間が迫っていたので家捜しを諦め、段ボール箱を車に押しこみエンジンをかけた。
 来週まであの社長は生きていないかもな。漠然と考えながら国道を走っていると、とつぜん涙が流れてきた。花粉症かといぶかしんだが、鼻水が垂れるでも、くしゃみが止まらないわけでもない。ただ涙が溢れる。終いには運転が困難なほど視界が遮られ、やむなく車を路肩に寄せた。どうしたものかと息をついた途端、今まで前を走っていた車が対向車と接触して、横転した。Kさんの目の前で、車が炎に包まれてゆく。119番。通報。混乱しつつも鞄から携帯を取ろうと後部座席に身を乗り出したKさんの手が、止まった。お守りがすべて箱の外に飛び出し、後部座席で星のような奇妙な形を作っている。手に取ると、封入された木札が粉々に割れている。ひとつ残らず。涙は、いつのまにか止まっていた。
 件の社長は、Kさんの予想どおり翌週に首を吊ったという。

投稿者:takazawa 2009年07月18日 10時30分

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