『球体関節リナちゃん』/君島慧是
「リナ? じゃあリナちゃん人形だ」
女は長い睫毛をカラスのように羽搏かせて礼がわりに微笑んだ。「さっき帰っちゃった友達、人形作家なの。あなたの死神もすごくリアルね。あ、この曲大好き。行こう」
ハロウィンパーティーで声をかけたその娘は、僕の腕をとってフロアの中央に進みでた。黒いワンピースにレースの髪飾り、緑のカラーコンタクト、節々に球状の関節を思わせる小道具をつけた白い肌……メイクの精巧さか、生来の素質か。球体関節人形に扮した彼女は人目を惹いた。
続けて二曲目を踊っていたときだ。突然全身から力が抜けたようにリナがしゃがみこんでしまった。咄嗟のことで僕も支えきれず、繋いだ手に導かれるように屈みながら、なんとか項に腕を回した。
がっくりと顎をあげたリナは目を開けたままピクリとも動かない。危ないので壁際まで抱えてゆき、頬を軽く叩いてみると、磁器の花瓶のような心地がする。時計が一時十一分を指した時だった、すごいすごいと周りにいた数人が騒ぎはじめた。しかし新しいリズムが空気を掻き混ぜ、DJの交代がしらされると、すぐにみな連れだってフロアの中心へ行ってしまった。
ひとり、壮年の吸血鬼に仮装した紳士が、シルクハットのツバを心持あげてリナの目を覗きこむと、こういった。
ヒトガタに魂が宿るという。どうやら逆のことが起きたのだろう。つまり、ヒトガタになったヒトから魂が抜けたのだ。
店の裏側に呼んだ救急車は、ものの五分で帰ってしまった。夜間診療を受けつけている病院を探して連れて行ったが、人形を持ちこまれても困ると叱られた。人形のリナを所持品にあった住所に届けるわけにもいかず、とりあえずまだうちに置いてある。たまにカクンカクンと動く。その度に僕は泣いたり笑ったり、色いろ忙しい。色いろ。
投稿者:takazawa 2009年07月20日 9時56分
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