『さくらの咲くあさ』/さとうゆう
山鳩が鳴かない朝にそっと山に登るといい。朝もやの中で花が咲く。
できるだけ道のないところを登るんだよ。誰にもみつからないようにな。みつかると厄介だから。
まだ立ちきらぬ草木を踏みしめて、ずむずむ進む。てっぺん、葉のない木をみつけるはずだ。その周りを囲む人たちも見えるはずだ。
木の真下に立つ人、2匹の猿を連れて、小さな声で説明をしている。耳を澄ます必要はない。大したことない話だから。
そのうち、すっかりみんな黙り込んで、さほど枝振りのよくない木をみつめだす。
むむむむむ、って。気難しい顔してな。当たり前だ。その日の商売を左右するんだから。
すると、嘶きとともに花が咲くんだ。厚い花弁で、ところどころ白く斑なのがいい。いい味なんだ。
ぶるるるると回転するみたいに花が開く。また、その勢いで、飛沫が飛ぶんだ。赤い飛沫だよ、あかぁいな。
花のできが良いほど、飛沫は遠くまで飛んで、人々の顔を染める。
はじめのほうの、どんな低い嘶きにも反応して、毛の白い猿が花の咲いた順に番号札を付けていく。怒号にも似た声を合図に、人々はその花に見合った値段をつける。値段の決まった花の番号札をもう一匹の毛の赤い猿が取ってきて、買い手に渡す。
そうやって全部の花に値段がつけ終わると、みんな四方八方に山を下りるんだ。残った親父が猿よりも器用に木を登り、花を刈り取って届ける準備をする。丸坊主になったらその朝は終わりだよ。おしまい。
え、馬をみたことない理由だろ。俺は間違ってねぇよ。ところでよう、これうまいだろ。この馬肉さ。いっとう高い嘶きだったんだそ。ま、サービスだサービス。たんと食え。
投稿者:takazawa 2009年07月21日 10時43分
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