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『冥福を祈る』/小瀬朧

 友人Sの運転で、神奈川まで出掛けたときのことだ。
 時間はまだ昼の一時過ぎだった。相模湖を脇に見ながら軽いカーブをいくつか抜けたあと、急にSが黙り込んだ。おかしいな、とSの方を見る。すると、Sが目を瞑ったまま運転している。
「おい、起きろバカヤロー、アブねえだろお」
 Sの脇腹に拳を入れる。はっと目を開けた。一瞬クルマがうねる。Sは、すまん、と一言いうとそのまま運転を続けた。
 しばらく経ってSがいう。
「なあ、どこへ行くんだっけ」
「そういうボケはいいから」
「いや、本気で」
 相模原の模型屋に行くんだろ、というと、Sは、そうだよなあ、と頷いた。どことなく顔色が悪い。
「あのなあ、俺、さっき、葬式に出てたんだ」
 Sが奇妙なことを言い出した。
「まあ夢なんだろうけどな。ほんの一瞬の間にずいぶん長い夢を見たような気がするんだ」
 Sが目を閉じていたのは、たしかに数秒の間だった。
「葬式の朝、すげぇ早く起きて火葬場に行くだろ、それにもついていった。で、午後になって、葬式が始まって、焼香の番が回ってきたから、目を閉じて、こう、焼香しようとしたら、お前に起こされた」
 白昼夢というのだろうか。そういう現象は聞いたことがあるし、それらしき体験をしたことがないわけでもない。だから、Sが冗談を口にしているのではないと思った。
 気になったので聞いてみた。
「ちなみにそれ、誰の葬式だった」
 Sは、うーん、と唸ってから口を開いた。
「いや、ぜんぜん知らない、若いニーチャンだったなあ」
 なんとなく気味が悪いので、帰りは高速道路をつかった。

投稿者:takazawa 2009年07月21日 10時55分

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