『山羊の足』/葉越 晶
昨年、友人宅で開かれた家族参加のクリスマスパーティに出席した。集まった子供たちが隠れんぼを始め、一緒に行った英国人の夫は、てんでに隠れ場に潜り込む子供たちを見て笑っていたが、帰り途、次の話をした。
「十歳の冬に母が病気になり、僕は祖父の家に一時預けられた。田舎の大きな屋敷で、使われていない客間なども多かったが、祖父も病身で気難しく、子供がやたらに部屋を見て回るようなことはできなかった。それでも親戚とその子供たちがやってきて滞在するクリスマスの間は、いつになく賑やかだった。
ある日の午後、僕たちは隠れんぼをした。何度目かに僕が鬼になり、次々に隠れた子たちを見つけていったが、最後の一人が見つからない。手分けして探すうち、僕は二階の廊下の奥で、珍しく鍵の掛かっていない客間を見つけた。中に入ると、大きなクロゼットがある。絶好の隠れ場所だったから、僕はすぐに扉を開けて中をのぞいた。コートがたくさん掛かっていて、掻き分けるのは大変だ。僕は隠れている子の足が見えないかと、しゃがんでみた。案の定、何着ものコートの奥に、二本の足が突きだしている。「見いつけた」と言いかけて、僕の声は宙に消えた。それは、毛深い山羊の足だった。僕はしばらくそれを見ていたと思う。その後できるだけそっとクロゼットの扉を閉じ、回れ右して忍び足でその部屋を出た。外の仲間は何も気づかず、階下では、残る一人の従弟がすでに隠れ場所を出て、他の子と一緒に僕らを待っていた。
その従弟が、夕食の席に行く途中、僕にこっそり言った。彼は書斎のソファの下に隠れている間に眠り込んで、自分を探しにきた子たちの声で目を覚ました。ソファの下からはみんなの足しか見えなかったけれど、その中に、山羊の足をした者が混じっていた。僕らの誰かはわからないけれど、たぶん誰でもなかったと思う、と。僕の知る限り、その後その屋敷で奇妙なことは起こらなかった」
投稿者:takazawa 2009年07月21日 12時53分
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