『窓からハイル』/asak_00
家のもっとも目立たない所、使っていない部屋に格子付きの小さな窓がある。窓の外は、やっと人がひとり通れるくらいの間隔しかなくて、手を伸ばしたら隣家の壁に触れてしまいそうなほどだ。死角なので通行人の目に触れることはまずない。
時折、風を通すので、その窓を開けるのだが、格子もあるので防犯面でも気が緩み、つい窓を閉め忘れてしまうことがある。
ある暑い日、私は窓を開けた。
部屋の開口をすべて開け放つと、風が流れて気持ちがいい。そのまままどろみ目覚めたときには、既に真夜中で辺りは暗闇に包囲されていた。
窓に嵌っているのは視界を遮る曇りガラスなので、見通しは悪い。だが私は窓の外、しかもすぐ近くで何かがうごくのを確かに見た。
暗闇に暗黒の影が浮かんでいる。
かたち取れないものが何かの塊になる様を、私はただ凝視していた。
黒い塊は、頭、首、胴を作り出していく。
私は叫び声も出せず、その場に立ちすくみ、子どものころ照明を消して眠るのが恐ろしかったことを思い出した。暗闇に対する得体の知れない恐怖が背筋を流れて全身に凍みる。
黒い人の姿となった塊は、格子の前に顔を突き出した。
早く窓を閉めなければ、私は窓枠に手を伸ばした。
しかし、もう遅かったのだ。
目鼻口のない人のかたちをした暗闇が手を伸ばし、私の手首を強く掴んだ。
「ハヤク ナカニ イレロ」
誰かが発した声に、私は漸く押し寄せるような悲鳴を上げた。
暗闇は静かに私の内部に入り込み、そ知らぬ顔をして生存していく。
投稿者:takazawa 2010年07月21日 10時36分
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