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『カマキラー』/葦原崇貴

 四歳の頃の記憶。夢だったのか否か判然としないが、やけに生々しく思い出せる。
 昼下がり、よく祖母に連れられて、家の裏手にある河川敷へ散歩に行っていた。僕の背丈よりずっと高いススキが一面に生えており、その中を探険することが好きだった。何度も遊んだ場所ではあるが、小さな子供にとっては日々新たな発見がある。そしてその日は、ススキの原の端っこに、狭いながらもポッカリと開けた空間があるのを見つけた。
 そこには先客がいた。僕よりも少し年上の女の子だ。服装は忘れたが、肌と同じで真っ白だったような気がする。髪は長く、顔は──記憶にない。どんな顔か覚えていないというより、はじめから顔などなかったように。
 僕は唐突な邂逅に驚いたが、それよりも彼女が大きなカマキリを手にしていることに興味が移った。昆虫好きとしては見逃せない、オオカマキリの中でも特に大型の個体だ。
 カマキリは小さな手の中で暴れ、少女の細い指を引っ掻いていた。だが彼女は痛がるそぶりも見せず、もう片方の手でカマキリの腹を摘み、もぎ取るように引きちぎったのだ。
 彼女はカマキリの体内に指を突っこむと、そこから、真っ黒な紐のような物体を、するすると引き出した。あまりにも長く、少女の身長ぐらいありそうだった。ミミズのように細く長く、しかもうねうねと動いている。
「ハリガネムシやけ」鈴の音のような声だった。「これで仕返しするんよ」
 それがハリガネムシという寄生虫で、名前のとおり針金のように頑丈な紐状の生物だという知識を得たのは、ずっと後のことだ。
「──こんなとこにいたんか」心配して探しに来た祖母に腕を引かれ、僕は少女をぼうっと眺めたまま、その場を離れた。彼女の言っていたことの意味を考えながら。
 異様に白い肌をした少女の首にだけ、黒紫に変色した部分──首を水平に一周する痕があったことを覚えている。

投稿者:takazawa 2010年07月21日 10時51分

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