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『棺桶』/ルリコ

大阪の私鉄T駅近くに、棺桶を作っている小さな作業所があった。初めて行った時にはさすがに多少ぞくっとした。でも棺桶を見慣れてくると、檜の香りは心地よく「銀行さん、ゆっくりしていきなはれ」と、お茶など出してくれるので、白木のパーツが箱になり金飾りが付けられるのを眺めながらの休憩は楽しみにもなってきた。四人職人さんがいたが、仕上がった棺桶が所狭しと立てて並べられ、慌ただしく作業している時もあれば、暇そうにテレビを見ている時もあった。……そのうちに、棺桶を組み立てるのは、注文があってからではなく、前日に予想を立てて作ってるのだと知った。「山さん」と呼ばれている初老の職人さんが、数を決めているのだ。「そうやなあ、三十こしらえとこうか」と、作業所の窓から外を眺めて言う。窓の向こうはT駅のホームで、うるさいので普段閉めているのを、そのときだけ開ける。
 それは決まって午前10時だった。山さんは指を折って何かを数えている。
「気になるか、アンタも覗いてみるか」興味津々を気取られて、ある時言われた。当たり前だが駅のホームが見える。時間的に人の数は少ない。ありきたりな風景。でもこの中に、明日の注文、つまい今日の死者の数を示す何かがあるのか。「そんなアホな、千里眼やないんやから、そんなもんわかるかいな。統計学ってしらんのか?この時間はな、丁度ええ具合に、年寄りから赤ん坊まで揃ってる。しかも忍従が百前後で一定してるねん。そん中の、半分仏さんになってはる人の数が多かったら、うちの注文も多くなるという事や」どれが半分仏さんになってる人か、怖くて聞けない。

投稿者:takazawa 2010年07月21日 10時56分

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