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<title>ビーケーワン怪談大賞ブログ</title>
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<modified>2011-07-22T05:47:08Z</modified>
<tagline>オンライン書店ビーケーワンが主催する「怪談大賞」の募集を行っています</tagline>
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<copyright>Copyright (c) 2011, kazuto</copyright>
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<title>『漸次』／横山　悠</title>
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<![CDATA[<p>　これは轡田という男の話である。</p>

<p>　暑い日でした。将来のことをちゃんとしておこうと保険屋に来てもらいました。私が死んでからのことを想像しながら保険プランを検討します。結構な時間を費やしてから、トイレに行きました。居間では旧式のエアコンが煩くて気付きませんでしたが、片開きの窓から雨音が聞こえます。居間へ戻って雨が降っていると伝えると妻は娘にミルクをやりながら洗濯物を入れてくれいと云います。いいですよおとおどけると仲が宜しくてと保険屋が笑いました。ベランダに出ると何かが落ちた気がしました。階下を窺います。ばしゃんと猫が飛び跳ねたような音がして、けれどもなにせ九階からなのでよくわかりません。まとわりつく洗濯物をそのままに振り返ると部屋の中が見えました。あまりに自分の死後へ想いを馳せていたからでしょうか、慇懃な保険屋に俯いて話す妻が未亡人と映りました。となれば私は草葉の陰ならぬ洗濯物の陰から妻子を見守る頓死した亭主です。これではまるで幽霊の視線でないかと自嘲さえした、そのときでした。ドアが開き居間に男が入ってきました。妻に囁きかけます。レースのカーテン越しなので淡い光景です。妻が窓を指さし、保険屋が笑いました。男が窓に近付いてきます。あっ！　それは紛れもなく私でした。私は言い知れぬ不安に急き立てられ、思わず手すりを飛び越えていました。生温い風に煽られ仰向けになりました。スローモーションで落ちる雨粒の合間にさっきの私の顔をみつけました。アスファルトにばしゃんと落ちました。下着まで水が浸みてきましたが、痛みはありません。雨脚が強くなりました。</p>

<p>　話すたびに痛くないはずないだろと突き出た脊髄を叩かれ悶絶していた轡田も四十九日が過ぎてあまり痛がらなくなった。それでも話すたびに話が変わるので嫌われている。<br />
</p>]]>
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<title>『靴』／ルリコ</title>
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<modified>2011-07-21T01:34:28Z</modified>
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<![CDATA[<p>嘘ではありません。あの朝、見覚えのない黒い靴が玄関にあったのです。夫の冠婚葬祭用のに似ていましたが、上等そうでサイズが違いました。夫が、窶れた顔をして汚れた作業服で出て行った後に気が付いたんです。きっと夫がどこかで拾ってきたのだと思いました。個人で塗装の仕事を請け負っているのですが不景気で仕事が減り、このマンションのローンも滞って、そうです、恥ずかしながら家計はせっぱ詰まってましたから、そういうさもしい事をしたのだろうと……。夜遅く、夫は酔っぱらって帰ってきました。一人ではありませんでした。連絡もせずに夜更けに人を連れ帰るなんて初めての事です。どこに飲み歩く余裕があるのかと腹が立ちました。夫の影で黙って頭を下げる知らない男を睨んでやったんです。面長で特徴のない顔、濃いグレーのスーツ。もしかしてサラ金の取り立てかもしれない、怖い人が付いてきたとぞっとしました。でもその次に男の足下を見た時には、別の怖さで鳥肌が立ち、思わず叫びそうになるのをこらえて、自分で自分の口を押さえました。……そのひと、靴を履いてなかったのです。「駅であっちゃった、ちょっとだけ、家に寄ってくれって俺が無理いったんだ」二人は、すーっと私の脇を抜けて……和室に入っていきました。玄関には夫のペンキで汚れたスニーカーと、黒い靴。「男が二人、靴が二足、数は合ってるけど違う、革靴は朝からあったし、あの男は黒い靴下で、ドアの外に立っていた」ぶつぶつ呟いている私の背中を夫の暖かい手が邪魔だと押しました。「じゃあ、いくから」夫は男と出て行きました。私は男が当たり前のように黒い革靴に足を入れたのを瞬きもせずに見ていました。夫の事は見てないんです。二人が出て行って、ドアがばたんと閉まった後です。夫のスニーカーあるのを見たのは。だから、夫が裸足で出て行って屋上から飛び降りるのを、居合わせながら止めなかったんじゃあ、ないんです。</p>]]>
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<title>『雪』／沢井良太</title>
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<modified>2011-07-21T01:20:57Z</modified>
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<![CDATA[<p>　頬を刺す風の冷たさに空を仰げば、薄墨色の雲から雪片が舞い落ちてくるところだった。お春はそっと手を合わせた。<br />
　お春が八つの夏、大火で家も両親も焼け落ちた。遠縁の紺屋に引き取られたが、この夫婦は吝いやで、おっつけられる仕事はお春の手には余り、逆に飯の量は足りなかった。ひもじさとしんどさに耐えかねて、お春は半年後に紺屋を飛び出したけれど、いくあてなどあるはずもない。稲荷や地蔵のお供えを頂戴しながらそれでもなんとかしのいできたが、冬の寒さだけはどうしようもなかった。ひょうひょうと風が呻り、雪が舞う。追われるようにお春は神社の高床の下に潜り込んだ。ここは昔住んでいた家に近く、火事になる少し前おとっちゃんとおっかちゃんと三人で、お参りに来たことがある。膝を抱えてお春は泣いた。あの時おかあちゃんとおとうちゃんと一緒に死んでれいばよかったのに。どうして助かったのだろう。そう思いながら顔をあげると目の前に大きな犬がいた。紺屋で見た藍染めのように、その毛皮の色は深くて濃い。犬はお春の帯を咥えると、ひょぉっと地を蹴った。ひょうひょう。耳元で風が鳴る。犬はお春を咥えたまま軽々と天を翔る。白く雪を被った町は小さく、お春は目を回した。起きてみればそこはおっかちゃんの幼友達の家の座敷の布団の中で、一夜のうちにかけるなんて大人の足でも無理な程遠い町だった。針子を幾人も抱えているその人は、快くお春を引き取り仕事を仕込み、一人前にしてくれた。<br />
　おっかちゃんと息を弾ませた声がかけてくる。赤い頬にねだって手に入れてた風車を誇らしげに掲げている。手を合わせているお春を不思議そうに見上げてから、雪に気づいて歓声を上げる。その後ろからおっとりと追いついてきた夫も、空を見上げた。雪だなという低い呟きと、はしゃぐ声がいとおしくて、いとおしくて、お春はふとにじむ目を伏せて、ふりつぐ雪にまた、手を合わせた。 </p>]]>
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<title>『山中の悪夢』／角うさぎ</title>
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<![CDATA[<p>今から４０年前、７月の夕暮れ迫る頃、僕はとある地方の、見知らぬ山道を足を棒にして歩いていた。高校生だった僕は、夏休みを利用して、当てもない無銭旅行を決行していたのだった。始めのころはポツポツと民家が、段々畑にへばりつくように点在していたが、一夜の宿を断られ断られしていくうちに、やがて黒々とした山の中腹の方へ、足を踏み入れてしまっていた。ずいぶん離れた家から家へと夢中で歩いていくうちに、いつの間にか日はとっぷりと暮れ、落胆のうちに、里の方へ引き返そうと決心したその時、ザワザワと鳴る竹やぶの向こうに、仄かな明かりがチラチラと瞬くのが見えた。目を凝らすと人家の黒く輪郭が見える。「あの家を最後に引き返そう。これ以上上っても家はなさそうだし。熊でも出たら大事だ。今夜は昼間通ったあのバス停のベンチで寝よう」僕はそう自分に言い聞かせると、ゴツゴツした固い地面に足を取られながら、山中の一軒屋に辿りついた。粗末な板戸を叩くと、ガタピシと引き戸が開けられ、枯れ木のような老婆が姿を現した。何もないが泊まるだけならいいという。疲れ切っていた僕は有難く土間の隅に横にならせてもらってすぐに眠りに落ちた。夜中、ふと目を覚ますと、何人もの人声が・・・夢うつつで聞いていると、寝込んでいると思ったのかだんだん声が大きくなってくる。「ワシは目ン玉がええ。トロリとして一番美味しいところなんよ。」「おっ、それは通好みじゃね。ウチはなんてったって心ノ臓じゃ。若者の精気がもらえるけん」「ワシは頬肉をもらおうわい。柔らこうて身がしまりよって堪えられんけん」「久しぶりじゃなあ」「久しぶりじゃわい」「うひひひ」「けけけけ」僕はもう総毛だって、戸を蹴破って外に転がり出た。そして躓き転びながら一目散に里を目指して疾走した。駆け込んだ民家で聞くと竹やぶの向こうにそんな家はないという。以来４０年、僕は毎晩同じ悪夢に悩まされている。</p>]]>
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<title>『風の憧憬』／アドバンス太郎</title>
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<modified>2011-07-21T01:16:21Z</modified>
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<![CDATA[<p>　すれ違う電車の窓はまるで活動写真のようだ。さっきから反対の線路を通る電車には誰も乗っていない。乗客も車掌も案内人も居ない。黄疸を浮かべる電気灯だけが活力を示している。いつまでも終わりの来ない映像に飽いて視線を戻す。黒い窓に映る自分が、じっとこちらを見つめていた。</p>]]>
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<title>『風になる』／アドバンス太郎</title>
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<modified>2011-07-21T01:15:17Z</modified>
<issued>2011-07-21T01:13:45Z</issued>
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<![CDATA[<p>　電車が人を運ぶようになったのはいつからか。<br />
　日本のそれは特に、規則正しく運行するという。無人の券売機で売り出される切符は親指サイズだ。通過する扉は一方通行だ。高架に作られた駅の階段は十三段。目が見えない方は点字をなぞり、導く声へ従い歩く。<br />
　間もなくホームに電車が参ります。アナウンスはどこか投げやりだ。<br />
　尚、この電車は次の停車駅まで止まりません。<br />
　トマトを投げつけたような電光掲示板のメッセージが右へ流れる。</p>

<p>　点字の上に一列に並ぶ人々はバラバラだ。同じ制服を着た子と笑いあう女。足のもげた犬のように杖をつく老婆。プルオーバーのパーカを引っ被って目を瞑る若者。<br />
　とおくからうあんと泣き声をあげて電車がやってくる。</p>

<p>　風の音にまぎれて「せぇの」と声が聞こえた。<br />
　一列に並んだ人達が、ぽてぽてと立幅跳びのように跳んでいく。</p>

<p>　電車が人を運ぶようになったのはいつからか。<br />
　昔は電気仕掛けの椅子が同じ働きをしていたらしい。<br />
　電車は定刻通り、目的地へ着くのだろう。</p>]]>
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<title>『ハコの中の少年』／吉野あや</title>
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<modified>2011-07-21T01:14:22Z</modified>
<issued>2011-07-21T01:12:55Z</issued>
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<![CDATA[<p>　まもなくJRになろうというこの時期、国鉄最後の事故にして、戦後最大の事故か？　とリポーターは山手線の脱線事故を伝える。<br />
　内回り線のATSが故障しラッシュ時の駅に飛び込み外回り線に激突。内回り線の先頭から数車両は潰れ、押し出された外回り線は恐怖に凍りつく数十人を轢き潰しながらフェンスを突き抜け、国道を走る車を数台潰し玉突き事故を誘発した。外回り線のだらりと伸びた尾はまだホームにあり、乗客は重力に引かれ車両の端に押し込められていた。<br />
　その底部で通学中の少年は頬を伝い唇を湿らせる水滴を飲んだ。誰かのコーヒーが潰れたのだろう。すごく甘く、養子にしてくれた甘党の両親が飲むコーヒーを連想させた。<br />
　息を付き、目を閉じると、少年は妙に懐かしい感じがすると気付いた。<br />
　こんな風に生き延びた記憶がある。<br />
　肉の壁に押し込まれ暗い中、もう一度目を開けると、光に照らされた巨大な手を見た。<br />
　まだ若く、いやむしろ幼い、彼と同じ年頃、中学生くらいの少女の手だ。少女の手はなにかをつまみあげ少年を覆うような仕草ををしている。布だ、と少年が直感した。<br />
　少女の手は少年の頭部をすっぽりと包み込みぐいっと引き寄せ、ぽたりと垂れてくる水滴を飲ませようとしていた。鉄錆の混じった水滴は氷水のように冷たかった。<br />
　――何日もつかわからないけど、運がよければ生きるかもね。<br />
　と幼い声がして、暗くなる。二箇所に硬貨を入れる音。鍵をかける音。硬貨が下の回収箱に落ちる音。遠ざかる足音と、群衆のざわめきと、遠く聞こえる踏切の音。<br />
　少年は不意に、自分の出自を理解した。<br />
　――運が良ければ。<br />
　と考え、少年は全身の骨をきしませる圧力と重量に耐えた。<br />
　甘ったるいコーヒーに、血の味が混ざる。</p>]]>
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<title>『それでも湖岸は通常運営』／吉野あや</title>
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<modified>2011-07-21T01:13:33Z</modified>
<issued>2011-07-21T01:12:01Z</issued>
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<![CDATA[<p>　釣竿を用意しながら気付いた腐臭のもとをたどったら、溺死体が一つ、目の前の葦に隠れるように岸に流れ着いていた。<br />
　俺はしゃがみこんで溺死体を葦の枯れ枝でつついた。自分の竿は汚したくない。つつくたび腐臭があがる。全身がガスでパンパンに膨れあがり、どこかの学校の制服をピンと張り詰めさせていた。既に魚に食われたのか目玉はなく、肌もボロボロ。流れ着いて日が経ってるのか、蛆が湧いている。湖水と蛆にまみれた制服の中、腹部が異様に膨らんでいる。つついてブラウスをめくる。やはり食われたのか、食い破られた薄い皮膚と内臓、それに蛆がびっしりとたかった胎児が見えた。<br />
　枝で胎児をつつく。蛆の蠕動か指先に伝わる。ちいさな頭蓋骨に興味を覚えあごのあたりをいじると、不意に首が外れ、母親の腹の上にちょこんと座った。生首だけで。<br />
　顔の表皮全体が蛆に成り代わっているくせに、生意気な。俺に向かって口を大きく開けて威嚇してやがる。<br />
　葦で頬をつつきじっとする。蛆虫の蠕動がまた感じられた。鼓動とはまるで違う、特有のリズム。食と、消化、生きる音。<br />
　たまらず水に落とすと、ぽちゃんと音を立てて沈み、そのまま戻らなかった。<br />
　そういえばこのB湖は年に三人くらい沈んで溺れ死んでいる。浄水場で水を綺麗にして臭いを取っても、死体の存在は残る。肉も髪も骨も爪も消化器内の飲食物と排泄物も全て水に溶け出し水道から出る。<br />
　なのに周囲は飲料水や煮炊きものに使う。<br />
　さっきの蛆虫だって水に溶ける。<br />
　けれど俺は水道から出た水で煮出した麦茶をペットボトルから飲んで、決めた。<br />
　俺は死体をそっと足で蹴り出して生い茂った葦の中に戻した。<br />
　いわゆる水入らず。陸の親子も湖の親子も、みんな仲良く水を飲めばいい。<br />
　どうせ誰も気にしないし。</p>]]>
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<title>『名は体を表す』／吉野あや</title>
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<modified>2011-07-21T01:12:34Z</modified>
<issued>2011-07-21T01:11:02Z</issued>
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<![CDATA[<p>　ねずみで、オスだから、ビビビ。<br />
　姉ちゃんはラットのビビビのびーちゃんをボクに任せて家を出て東京の大学に進む。<br />
　よりにもよってビビビ。アルジャーノンでもミッキーでもガンバでもピカチュウでもいいのに、なんでわざわざビビビなんだか。<br />
　荷造り中の姉ちゃんに聞くと、言葉を濁しながらようやく、<br />
「やっぱねずみは臭くなるから」<br />
と当然のように答えた。<br />
「そんなん小屋掃除ちゃんとやったらええやん。毛ェに臭いがつくわけやないし、平気やんか」<br />
「アレは平気ちゃう。兵器や」<br />
　姉ちゃんは首を振った。<br />
　結局姉ちゃんはボクの話を聞かず、東京に行ってしまった。おかんはねずみは嫌いだし、おとんは動物そのものが嫌いだから、予定通りボクがびーちゃんを飼うことになった。<br />
　びーちゃんのエサはペット用のペレットと水が主。意外と粗食だ。<br />
　回し車を入れてなかったから入れてやると、びーちゃんはしっぽをピンと立て警戒しながらふんふんと匂いを嗅いだ。手をかけると動くと気づいて、回し車を入れてから二十分もしないうちに元気に走るようになった。<br />
「よかったなびーちゃん。これからはボクと仲良うしてな」<br />
　ケージ越しに話しかけるとびーちゃんは機嫌良くケージにしがみついてボクを見た。<br />
　ラットってでかいし股間にラジエーター付いてるけどかわいいな、と思った瞬間、プチ、という音がした。<br />
　くさい！<br />
　その音がいわゆる屁、つまり屁ェ器だと分かったのは、数時間後、強烈な臭いに倒れ、気絶から覚めた時だった。<br />
　ケージ越しにびーちゃんを見ると、ねずみのくせに、ニヤニヤ笑っていた。</p>]]>
</content>
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<title>『カビ』／松尾マゴ</title>
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<modified>2011-07-21T01:11:51Z</modified>
<issued>2011-07-21T01:10:25Z</issued>
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<email>kaidan@yesyes.jp</email>
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<dc:subject>第９回応募作品</dc:subject>
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<![CDATA[<p>「俺さ、カビとヤっちゃったことあるんだよね」<br />
　辻村の顔は真っ青で、とても嘘をついているようには見えない。<br />
「いやまていやまて、おまえはこれを飲め」<br />
　あまりにもおかしなことを言うので、酒を取り上げ水を飲ませた。辻村は素直に従う。<br />
「おまえ酔っただろ。送っていくからすこし歩こう」<br />
　居酒屋から出ると蒸し暑い空気に包まれる。夏の夜だ。辻村のアパートはここから二十分くらい歩いた場所にある。<br />
「明子と別れたんだよ。でもさ、俺、いつか帰ってくるんじゃないかって思ってね、彼女が寝てた布団を敷きっぱなしにしてたんだ。その布団舐めたり、嗅いだりしながらオナってたんだよ」<br />
「そんな小説あったな。誰でもするだろ、それくらいで気に病むなよ」<br />
「そんなことをしてるうちに、だんだん布団に黒いシミが浮き出てきたんだ。そいつがさ、俺が眠りに落ちる寸前、モワッと人型に盛り上がるんだよ。俺、よく見てみたの。黒いけど、そいつ明子の身体そっくりなんだ。だから挿れたよ。挿れた具合も、明子そっくりなんだ。で、俺、イクだろ？そしたらさ、凄い勢いで胞子をまき散らしたから、あ、こいつはシミじゃなくてカビなんだって分かったんだ」<br />
　程なく彼のアパートに着いた。吐き気を催した辻村がトイレに駆け込む。和室には敷きっぱなしの布団が並んでいる。たしかに片方には黒いシミがある。辻村に水を飲ませ、布団に横たわらせた。彼はスウと敷き布団に染みこむように眠った。私の目の前に、黒いシミが二体並んだように見える。気味が悪くなり、彼のアパートから逃げ出した。<br />
　それから辻村とは会っていない。ただ、ふとしたところにカビを見る度、助けを求める辻村の顔が見えるような気がする。</p>]]>
</content>
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<title>『風の通り道』／アドバンス太郎</title>
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<modified>2011-07-21T01:08:44Z</modified>
<issued>2011-07-21T01:07:14Z</issued>
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<![CDATA[<p>　冬、終電間際の快速列車に化物が出るらしい。そんな噂を見聞きしても貴方は構わず電車に飛び乗るだろう。零時の短針を回す空っ風に吹かれ、冷え切った体に車内は優しい。鼠色の座席に着くと尻がじィんわりと暖められ、温風が足を揉む。時間も時間、乗客は疎らだ。乗り合わせた客達の顔に、生気を感じることは無いだろう。皆、視線は手元に落ちて、おとした目玉を探すように回る。デジタル表示の時計を見る。家に着くのは何時だろう。飯を食うのは何時だろう。風呂から出れば何時だろう。床について起きるまでは何時だろう。……明日の仕事は何時に始まる。<br />
　帳簿をつけるのは苦手でも、明日のことを考えるのには苦労しない。<br />
　昨日のことは今日のことと大差ない。<br />
　嫌気が差してあなたは目を瞑るだろう。疲れた体はストンと眠りに落ちるだろう。</p>

<p>　プシュ、とサプレッサーのような音がしてあなたは目覚める。<br />
　止まった電車。真っ暗闇の外。開いた扉。ヤニ汚れた電灯。無人の車内。<br />
　いかん寝過ごした。<br />
　折り悪く鳴り響く発車ベルに、あなたは慌てて車外に飛び出るだろう。</p>

<p>　飛び出した先は無人駅。この世の何処にも無い。<br />
　振り返る電車は韋駄天、うわんと泣いて走り去る。</p>]]>
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<title>『喪失に手向けるは淡い侵蝕』／加楽幽明</title>
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<modified>2011-07-21T01:07:49Z</modified>
<issued>2011-07-21T01:06:21Z</issued>
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<email>kaidan@yesyes.jp</email>
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<dc:subject>第９回応募作品</dc:subject>
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<![CDATA[<p>　向こうから男の人が歩いて来ます。日差しが強く、逆光で表情は伺えません。地面から陽炎が立ち昇る程の暑さです。男の人との距離が縮まります。唐突に男の人が倒れました。私は男の人の元へ駆け寄ります。大丈夫でしょうか？　私は男の人に触れました。脈はまだあります。急いで救急車を呼ばなくてはいけません。今日は蕎麦にしよう。そんな事を考えている場合ではありません。俺、あいつ嫌いだからな。違うんです。誤解です。暑さのせいでしょうか？　思ってもいない事が頭から湧いてくるのです。お陰で思考が乱れます。またです。このままでは間に合いそうもない。早くしないと、開場に遅れてしまう。そうじゃないです。救急車を。私はポケットから携帯電話を出そうとします。ふと自分の腕を見れば、スーツの先から見える掌はごつごつとした男のようです。なんだか本当の自分ではないようで、ひどく据わりが悪いです。私はただひたすら謝りたい気持ちでいっぱいになります。ごめんなさい。電車が遅延していて。地図と違って、駅から随分と離れていたし。いえ、違うんです。本当にすいません。<br />
　時計を見れば、思った以上に時間が過ぎていた。日差しは幾分和らいで、幾許かの影を路面に描いていた。一寸前まで見ていた景色とは若干違っている気がする。まるでぽっかりと数分間の記憶が抜け落ちてしまったようだ。確かに俺はこの道は歩いていたが、記憶が判然しない。曖昧な事象に頭を抱えていると、俺は電柱に置かれた枯れた花束を見て、無性に切なくなった。思わず静かに手を合わせると、俺はそこから立ち去った。<br />
　あとで着信履歴を見たら、何故か救急に連絡を入れた形跡があったが、全く思い出せない。</p>]]>
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<title>『Ｓさんの経験』／きよみずミチル</title>
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<modified>2011-07-21T01:06:51Z</modified>
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<dc:subject>第９回応募作品</dc:subject>
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<![CDATA[<p>Ｓさんは、長年の飲み友達です。独身のＳさん。一人暮らしが大嫌いです。ご両親、友人、恋人、弟子、兄弟。一緒に住む相手は様々に変化してきましたが、私が知る限り、いつも誰かと一緒に住んでいます。<br />
このＳさん。過去に一度だけ、一人暮らしをした事があります。新宿区内の某所。賃貸マンションの１０階。２ＬＤＫの部屋で始まりました。引っ越して三日目の夜。９月の彼岸過ぎ。クーラー嫌いのＳさんは、ベランダに面した寝室の窓を全開にして寝ていたそうです。道路沿いのマンション。行き過ぎる車の音と蒸し暑さになかなか眠れず、何度も、寝返りをしていると、ベランダの隅から、黒いコウモリのような影が、Ｓさんのほうに飛んできたそうです。<br />
なんだ？<br />
そう思った途端、Ｓさんは金縛り状態に。動かせるのは目だけ。コウモリのようだと思った影はみるみるうちに大きくなり、Ｓさんの上に乗ったそうです。それは、血で汚れた包帯を顔に巻いた男の姿で、緩んだ包帯の間から、血走った片目が見えています。黒っぽいスーツ姿のその男は、Ｓさんの首元を片手で押さえつけて言ったそうです。<br />
「わたしは・・・。ここから飛んで死んだあ・・・」<br />
わたしは死んだあ・・・。<br />
その男はなんども、なんども、そう言ったそうです。<br />
Ｓさん、満身の力を振り絞って怒鳴りました。<br />
「うるさあ?????い！」<br />
怒鳴り声とともに、男の姿は消えたそうです。<br />
翌日、引越の手配をしたのは、言うまでもありません。<br />
現在もあるそのマンションの場所。内緒です。</p>]]>
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<title>『まじない』／沢井良太</title>
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<modified>2011-07-21T01:04:20Z</modified>
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<dc:subject>第９回応募作品</dc:subject>
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<![CDATA[<p>　私の叔母は醜い人だった。おちょぼ口の狛犬とはよく聞いた陰口で、行かず後家として台所の隅で縮こまるようにしながら、いつも冷や飯を食べていた。それでも優しい人で、私は姉のように慕っていた。<br />
　私が十二歳の七月。喉が渇いて台所におりたところ、裏庭にひとり、しゃがんでいる叔母を見つけた。髪を洗っているようにも見えたが、それも刻限を考えれば不自然で、私は首をかしげながら近づいてみる。<br />
　叔母は足元に置いた小さな盥に、手にした櫛を浸しては髪を梳いていた。<br />
「なにしてるんですか」<br />
「おまじない。内緒ですよ。こうして月が生まれてから消えるまでの三〇日間、一日も欠かさず月の光を溶かした水で髪を梳くと、願いが一つ叶うんです」<br />
「雨が降るかもしれないでしょう」<br />
「だから難しい。これで何回目かしらね」<br />
　はんなりと微笑み叔母は髪を梳く。濡れ濡れとした髪がうちかかり、その晩の叔母は身震いするほど美しかった。<br />
　そんな叔母の一念が通じたのか、そのひと月はひたすらに暑く、雨は夕立のお湿り程度。夜空にかかる雲もなく、叔母はひとり秘かにまじないにいそしんでいるようだった。<br />
　明けて八月。庄屋の甚六が頓死する騒ぎの影で、叔母の姿が消えた。両親が庄屋の葬式だ、叔母の捜索だとばたばた走りまわる最中、私は彼女の部屋の押し入れの奥に、あのまじないの盥だけを見つけていた。<br />
　なぜか人に見られてはいけない気がして、私は饐えた臭いを放つ半ば腐りかけた黒い水をこっそりと裏庭に捨てた。盥の底には、とぐろを巻く蛇のように、叔母の黒髪が縒り固まって残っている。私は盥ごとそれを風呂の焚口に突っ込んだ。湿って火がつかないのではと思いきや、それはちりちりと燃え上がり、あっけなく跡形もなくなった。<br />
　叔母の消息だけがいまだに知れない。</p>]]>
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<title>『やきもちやき』／沢井良太</title>
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<modified>2011-07-21T01:03:29Z</modified>
<issued>2011-07-21T01:01:56Z</issued>
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<email>kaidan@yesyes.jp</email>
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<dc:subject>第９回応募作品</dc:subject>
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<![CDATA[<p>　自販機で煙草を買い、宿泊しているツインに戻ると、ぼそぼそと話す声がした。電話中らしいが、合間に私の名前が混じるのが気にかかる。磯貝にどうしたのかと訊くと、<br />
「先輩の名前がまぎらしいもんで、しぃちゃんが怒り出しちゃったんですよ。女の先輩と出張なのかって」<br />
　私の名前は清香と書いて『キヨタカ』と読ませる。この手の間違いは、物心ついてから日常茶飯事だった。<br />
「そりゃ災難だったな」と私が笑うと、磯貝もにやぁと笑み崩れる。<br />
「しぃちゃんてば、焼餅焼きで。そっちに行って確認するって言ってきかないんですよ」<br />
　しぃちゃんとは、磯貝が中学生の時から付き合っている彼女で、現在は同棲中。事あるごとに磯貝はのろけ倒し、こちらは毎度砂を吐く思いをさせられている。夜通しそんな目にあわせられては堪らない。私は早々にベッドにもぐりこみ就寝したのだが、夜中に目が覚めた。胸苦しい。息が詰まる。暗がりに目を凝らすと、誰かが私の胸の上に馬乗りになり、強い力で喉仏を抑え込んでいた。<br />
　小柄な女。暗い中それだけがわかる。髪の先が顔にかかり、気持ち悪い。下腹部をさわさわと撫で回される不快な感触。何が嬉しいのか声を殺すように笑いながら私の上から下りると、女は隣のベッドの毛布に頭から入り込んでいく。くにゅくにゅ動く毛布の向こう側から、磯貝が起き上がった。サイドランプの灯りが点る。毛布の動きも止まる。<br />
「すみません。しぃちゃんてば、もう、ほんとに焼餅焼くと見境なくって。僕が高一の時なんか、一緒に買出しに行った女子が許せないって、無理やりその子と四階の窓から飛び降りちゃったりするし。ほんとすみません」<br />
　はにかんだように笑う気のいい後輩が、不意になにやら気色の悪い化け物に見えた。その肩の向うにあの女が見え隠れしているようで、私は吐気と寒気におそわれた。</p>]]>
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